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制度の行き詰まりの果てに

 愛知県弁護士会日弁連法科大学院制度の改善に関する具体的提言(案)」に対する意見書を公表した。非常に興味深いので、いくつかの点について私見を書きたい。

 法曹界・新司法試験受験生・法科大学院生・法科大学院受験生・法科大学院関係者だけでなく、社会全体で議論されるべき問題だと思う。

 

1 経済的負担の大きさ

 意見書では、法科大学院制度が持つ基本的構造こそが社会人を含む法科大学院志願者を減少させる大きな要因となっている、とする。そこでは、法科大学院在学中の生活費を含めた経済的負担の大きさを問題視する。

 これは非常に大きな問題で、法科大学院生・浪人生の時間を通じて、身をもって実感し続けてきた。いかなる試験(大学受験なども含めて)でも経済力は試験突破のために必要だ。だけど、新司法試験の場合はこの割合が大きすぎる。

 

2 文書作成指導の充実

 従来、文科省とタッグを組んで、日弁連は「文書作成指導は予備校の答練と同じだ。法科大学院内で、受験指導チックなことをしてはならない。」と声高に叫んできた。今になって、日弁連法科大学院における文書作成指導の充実を提言することについて、意見書は矛盾した施策とバッサリ切り捨てる。

 法科大学院在学中に、日弁連文科省の上記見解を何度聞いたことか。その度に、非現実的な施策だと感じさせられ続けた。民事訴訟法・刑事訴訟法では、判決文・起訴状・訴状・答弁書・準備書面など、法曹三者による書面作成を規定する。法曹は文書を作成してナンボ。法科大学院で文書作成指導を禁止するなんて無理がある。意見書が矛盾と切り捨てるのは当然。

 

3 短答式試験

 日弁連は短答式試験の易化を提言する。具体的には、試験科目目削減・出題範囲の限定など。これに対して、意見書では、基本法に関する満遍ない知識が必要性を理由に、日弁連の案を切り捨てる。短答式試験の私見はこちら

 旧司法試験でも、短答式試験は足きりのみ使われ、論文式試験と短答式試験の得点を合算してなかった。短答・論文の総合点で評価する必然性は全くない。試験制度改革にあたって、私見の採用をお願いしたい。

 

4 受験回数制限

 日弁連は当面の間「5年5回」を主張する。これに対して、意見書では、受験生の意思に反する受験回数制限は合理的意味を見出せないとして、受験回数制限の撤廃を主張する。

 なぜ受験回数を制限する必要があるのか、合理的理由は何もない。本当に多様なバックグラウンドを持つ受験生を新司法試験に呼び込みたいのであれば、受験回数を重ねた法曹も多様性の1つのはずである。

 

 

 その上で、意見書は以下のように結論を述べる。

 「現在、法曹界とりわけ弁護士の世界は、司法修習生の就職難が顕在化している。そして、法科大学院に通うことは、それ自体に伴う経済的な負担・・・や長期間にわたる時間的な負担が伴う・・・。・・・法曹を志す者にこのような経済的・時間的負担を強い、そしてそれをこれからも強い続けるのは、法曹を志望しようと考えている社会人や学費や生活費の経済的負担に耐えられない人にとっては、現行制度が法曹への道を断念せよと言うに等しい。すなわち、経済的、時間的理由から有為な人材が法曹への道を断念せざるをえない制度は不公平、不平等であり、これを許容し続けることは不正義である・・・。」

 「司法試験の受験資格を得るためには、法科大学院課程の修了が条件となっており、それが志願者減少の主たる原因である。・・・法曹志願者の法科大学院課程を修了することに伴う経済的負担及び時間的負担を軽減する必要があり、当会はその施策として、法科大学院課程修了を司法試験の受験資格から外すべきことを提言する・・・。

 このように制度を変更することにより、いつでも誰でも自由に受験することが可能となり、有為で多様な人材が法曹を志願することができ、かつ開放的で実力本位の司法試験が実施されることになる。・・・法科大学院の定員を削減する必要もなくなる。また、法科大学院に進学するかどうかも学生が自由に判断することができるようになり、現在のような過酷な経済的・時間的・精神的負担から解放されることになる。」

 「法科大学院は質の高い法曹を養成し、法の支配を通じて国民の幸福と利益を実現するために存在している。法科大学院のために法曹養成があるのではない。全ての制度を法科大学院存立のために設計するというのは本末転倒であると言わなければならない。・・・法科大学院が真の意味で「点から線へ」の教育がなされ、理想的な法曹養成教育を行えば、法科大学院の知名度を上げ、自ずと学生は集まってくるはずである。司法試験を単なる受験テクニックだけでは合格しにくいものにし、法科大学院で理想的な法曹養成教育を行って、予備校ではなく法科大学院を卒業した人の方がよく司法試験に合格するようにすることこそが本来の法科大学院のとるべき途ではないか。」

 

 魅力的な教育を法科大学院が提供できるなら、自然と法科大学院へ人が流れていく。至極まっとうな意見。迷走する法曹養成制度を解決する、1つの方策と考えたい。

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