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適切に表現できない難しさ

 韓国・光州(映画では霧津という設定)の聴覚障害者学校で、現実に起きた性的暴行・虐待事件を描いた『トガニ 幼き瞳の告発』。21日、京都シネマ四条烏丸)で見た。

 聴覚障害者学校に赴任した美術教師カン・イノ(コン・ユ)が虐待の惨状を目の当たりにし、地元人権センターに勤務するソ・ユジン(チョン・ユミ)とともに立ち向かう。スピーディーな展開やスリリングな映像描写などエンターテインメント性を持たせつつ、扱うテーマの深刻さ・生徒の証言の生々しさなどシリアスな仕上がりに。
 被害者は自分の意思を表現する手段の限られた聴覚障害者。障害に乗じた卑劣な犯行、という一言では言い尽くせない残酷さ。 韓国・光州(映画では霧津という設定)の聴覚障害者学校で、現実に起きた性的暴行・虐待事件を描いた原作者コン・ジヨンのコメントによれば「現実はもっと酷かった」。なんと表現していいのか・・・。

 被害者を保護するカン・イノやソ・ユジンの描き方には感動した。決して独善的な正義感のためではなく、被害者との対話を通じて、被害者の苦痛に寄り添う姿勢・共感する姿勢に。

 

 ファン・ドンヒョク監督のコメントも考えさせられた。

 「実際虐待を受けた子どもたちの面倒を見てくれた方からこんな話をされました。『自分たちが5、6年闘っても、なにひとつ変わらなかったのに、映画によって状況が一変した。ならば、もっと早く変わっても良かったんじゃないか』と。・・・韓国社会は、まだまだ未成熟です」

 

 韓国法曹界の悪癖とされる、前官礼遇も描かれていた。退官後初めて弁護士として手がける裁判に、裁判官がお手盛りをするという習慣だ。習慣の詳細な背景を知らないが、儒教的制約の多い韓国社会ならではと感じた。

 

 日本でも、似たような事件は起きた。カルト宗教団体・聖神中央教会(京都府八幡市)の性的暴行事件、児童養護施設恩寵園(千葉県船橋市)の性的暴行・虐待事件など。閉鎖的体質の組織、加害者と被害者の絶対的上下関係、被害者の弱みにつけこむ手口など、トガニで描かれた世界と多くの共通項を見出せる。

 一市民にできることは限られている。偽善を振りかざす論評より、事実を直視したり、被害者の社会に対する声を聞き取る努力をするしかない。

 病的な性癖を持つ人格、自らを絶対視する者の思考回路は改善できない。日頃から社会的な関心を高め、こうした被害者を絶対に生んではいけない、という風潮を形成するしかない。トガニで描かれた事件の残酷さを認識するとともに、こうした事件を予防することの難しさも痛切に感じた。事件を論評する前に、まずは映画をご覧になってほしい、という名作。


『トガニ 幼き瞳の告発』予告編

 

トガニ: 幼き瞳の告発

トガニ: 幼き瞳の告発

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