選考過程にも説明責任
ここまで、金メダルの獲得こそないが、ロンドン五輪・日本競泳陣は快進撃を見せる。個人種目で金0銀2銅7を獲得、合計メダル数では五輪史上最高だ。
かつて日本水泳連盟の選手選考には、恣意的との意見もあった。シドニー五輪の選考過程では、千葉すず(アテネ五輪男子200mバタフライ銀・山本貴司の奥様)が選考されず、スポーツ仲裁裁判所への提訴などもあり、大きな論争となった。
現在では、五輪選考会となる日本選手権(2012年は4月上旬に開催)で、前年に発表される五輪派遣標準記録を突破した選手が自動的に選考される仕組みとなっており、恣意的な選手選考は行えない。
この選手選考システムは事前に派遣標準記録が公開されるため、選手選考の公正さが担保される。代表に落選した選手も納得できるシステムだ。
前年度までの記録・1カ国2名までの選手登録を前提に、世界ランク16位レベルの記録を五輪派遣標準記録としているため、予選敗退レベルの選手は派遣されない。派遣選手が増えるほど、合宿等での予算が膨らむ。強化費のムダな支出防止が目的だ。
ロンドン五輪では、初出場の選手も含め、ほぼすべての選手が予選を突破し、準決勝以上に進出した。上記目的は達成されたといえる。
もちろん、この選手選考システムにも欠点はある。公正さ担保のために一発勝負とすることで、五輪本番だけでなく、日本選手権にもピークを合わせる必要がある。若手選手と比べて、ベテラン選手に不利な制度との意見もある。
ただし、ロンドン五輪の選考から、前年度世界選手権で優勝すれば、自動的に代表選出されることになっており、上記意見にも一定程度配慮されている。
一発勝負でなく、過去の実績等も加味して、選手選考を行う競技もある。柔道や陸上はその典型例だ。マラソンに至っては、選考対象レースの気象条件・レース展開などといった、およそ不毛な要素まで加味される。
各競技の特性などもあり、そのまま競泳の選手選考を模倣せよとは言えない。しかし、事前に期待されていたほどの結果を残せない競技では、選手選考過程をきちんと検証すべきだ。各競技団体への補助金だけでなく、味の素トレセンをはじめとするナショナルトレーニングセンターの拠点整備・運営費用にも税金が投入されている。各競技団体には、五輪選手選考過程に説明責任がある。内輪の論理で不透明な決定を下すことはやめるべきだ。
柔道では、期待された選手が悉く結果を残せなかった。五輪終了後、今後の選手選考過程について、深い議論がなされることを期待したい。監督や選考された選手の力量不足だけを要因として、ロンドン五輪総括の幕引きをしてはならない。
最後に一言。女子200m平泳ぎで2位となった、鈴木聡美の発言に感動した。
「自分に『おめでとう』と言いたいです」
競技終了後に、満面の笑顔で、こんなセリフを言えるアスリートは素敵だ。見ていたこちらこそ、『おめでとう』と言わせてください。